特別展『古代への憧憬』@万葉文化館

奈良県立万葉文化館の特別展を鑑賞して参りました。

万葉庭園のススキが秋の風情を醸し、イソギクももうすぐ開花の時を迎えようとしていました。いよいよ秋本番を控え、各地のミュージアム巡りもこれから賑やかになってくることでしょう。

万葉庭園のススキ

万葉文化館の前庭~万葉庭園のススキ。

ここに虫の音でも聞こえてこようものなら、絵に描いたような秋の風景ですね。万葉文化館が所蔵する日本画にも、ススキの風景画があるのではないでしょうか。定番の中の定番といった趣です。

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太子降誕を始めとする日本画展示

古代文化のイメージとその役割を検証する。

今回の特別展のテーマにもなっている ”古典の美” は、いかに近代社会に反映されてきたのでしょうか。明治時代中期には、国民美術の創始という観点から歴史画が重要視されていたようです。記紀万葉を題材とする歴史画は、当時の教科書などの挿絵へと転用されるようになります。

日本文化の原典としての古代イメージ。それらが国民に浸透していくようになりました。万葉集が広く読まれるようになったのは大正時代以降のようですが、万葉集に描かれる素朴な古代生活への憧れを滲ませる作品も数多く描かれています。

万葉文化館の名誉館長・中西進氏の著作に『日本人の忘れもの』という作品がありますよね。社会が近代化していく中で ”忘れ去られようとしている何か” を歴史画の中にも見つけることができるのかもしれません。

堂本印象『太子降誕』

堂本印象『太子降誕』 1947年 京都府立堂本印象美術館蔵

どこかキリスト降誕の構図とも似ているような気がします。

動きの感じられる母親の手の中で、仰向けに安らぐ聖徳太子が描かれています。

特別展のフライヤー

開館15周年記念 特別展『古代への憧憬』~近代に花開いた古典の美~

今回の特別展を宣伝するフライヤーの裏側です。

季節の植物を淡いタッチで描く、冨田渓仙の『万葉春秋』が横長の屏風スタイルで館内展示されていました。右下の日本画が福岡県立美術館蔵の『麻須良乎』で、左下は川崎小虎の『歌垣』です。

吉村忠夫『麻須良乎』

吉村忠夫の『麻須良乎』 1941年

漢字の表記違いにはなりますが、要は益荒男(ますらお)のことだと思われます。かつて大相撲の世界にも、益荒雄(ますらお)という四股名の力士が居たことを思い出します。勇ましい姿の絵画を見ると、なぜか土俵上の益荒雄が頭をよぎりました(笑)

万葉文化館のイソギク

万葉文化館駐車場脇のイソギク。

もうすぐ開花のタイミングなのでしょうか、葉っぱにも生気がみなぎっていますね。

特別展『古代への憧憬』

敷地内へ足を踏み入れると、特別展の看板が出迎えてくれます。

太子降誕の絵画下に案内されているのは、吉村忠夫の『多至波奈大郎女』という作品です。大正15年の制作で、今は法隆寺に所蔵されているようです。

歌垣の風景と万葉古代学閲覧コーナー

万葉文化館の展望ロビーは、美術鑑賞の息抜きにはうってつけの場所です。

大和三山を見渡すことのできる展望ロビーにはゆったりサイズの椅子が用意されており、ちょっとした休憩におすすめのエリアとなっています。ガラス越しの眺望の反対側に目をやると、万葉人のレリーフが壁に飾られています。

歌垣の風景

歌垣の風景。

一種の求婚の場だった歌垣ですが、館内地下一階の一般展示室にも歌の広場があります。世界中の歌垣風景をビデオ鑑賞することができます。現代の日本社会には馴染みのない光景ですが、中西進氏のおっしゃる「日本人の忘れもの」を見たような気が致します。

歌垣の語源

歌垣の風景に解説が付いていました。

興味深い「歌垣」という言葉の由来も案内されています。

『万葉集』などによれば、歌垣とは年齢・性別を問わず歌を掛けあって恋人を求め、また、歌競べなどをするもの。春や秋に山上や市などで歌舞・飲食し、その中で男女が出会った。

「歌掛き」が本来の意味だったと思われるが、人が垣根のように立ち並んで歌を掛け合うことから、奈良時代には「歌垣」と書かれるようになった。東国では嬥歌会(かがい)と言い、その場合の語源は「掛け合い」であろう。

万葉文化館の展望ロビー

春日大社の式年造替を案内する小旗ですね。

以前にここを訪れた時には、春日若宮おん祭に登場するだ太鼓が展示されていました。

春日杉の年輪も見応えがありますね。

万葉文化館に展示中のこの一本の春日杉には、日本の歴史が詰め込まれています。日本画鑑賞だけにとどまらない見所が万葉文化館には用意されています。

万葉文化館ミュージアムショップ

ミュージアムショップには万葉集関連の書籍や、万葉日本画をモチーフにしたクリアファイルが売られていました。ミュージアムショップの前には喫茶スペースもありますので、小腹が空いたら立ち寄ってみるのもいいですね。

万葉文化館といえば中西進氏なのですが、『日本人の忘れもの』も近くのコーナーで販売されていました。中西進氏のひらがなで読めば分かる日本語も愛読しているのですが、日本人の忘れものも是非オススメです。

万葉古代学の閲覧コーナー

日本画展示室を回り込んだところ、ホワイエと呼ばれる場所にL字型の椅子が用意されていました。

ここに座って読書が楽しめるようです。

万葉文化館の閲覧コーナー

閲覧コーナーに案内文が出ています。

奈良県立万葉文化館では『万葉集』研究の基礎となる文学研究はもとより、歴史学・民俗学・宗教学・考古学・歴史地理学・環境学・自然科学などの幅広い学問の協力が不可欠であると考え、学際的・国際的な万葉学を構築し、万葉胎動の地である飛鳥から情報発信していくことを目指してきました。

「万葉古代学」は、万葉文化館が提唱する『万葉集』を中心とした総合的古代学のことです。文学・歴史学・民俗学・宗教学・考古学などの隣接諸科学を有機的に連携しつつ、その研究領域と方法を越えて『万葉集』を考究する試みをいいます。

万葉文化館ではこれまで『万葉集』を広く古代文化の一環として位置付け、様々な角度から総合的な価値を追究し、その成果を講演会やシンポジウム、年報などの媒体によって公表してきました。ここではその一部をご紹介いたします。

案内文に目を通し、万葉文化館が取り組んでいる万葉古代学という学問の領域がいかに広いかを肌で感じます。実に広範囲に渡って、総合的に学究が続けられているようです。

奈良県立万葉文化館

受付で入館料を支払い、特別展のチケットを手にします。

飛鳥池工房遺跡を眼下に見ながら、渡り廊下を通って日本画展示室の受付で入館チケットを提示します。基本的に日本画展示室を一旦退場したら、再入場はできませんので心ゆくまで楽しみましょう。

万葉文化館のフライヤー

昔を懐かしむ。

そこにはセンチメンタリズムばかりではない、何か新しい発見があるのかもしれません。

日本人が古来辿って来た道のりを、もう一度見直してみる価値はあるでしょう。現代社会への問い掛けも、今回の特別展には内包されているのかもしれません。

<奈良県立万葉文化館>

  • 住所  :奈良県高市郡明日香村飛鳥10
  • 開館時間:10時~17時30分(入館は17時まで)
  • 休館日 :毎週月曜日(祝日の場合、翌日休館)
  • 観覧料 :一般1,000円 高校・大学生500円 小中学生は観覧料無料
  • 開催期間:『古代への憧憬』平成28年10月15日(土)~11月27日(日)

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