月の誕生石に見る腹帯ライン

満月と出産には関係があると昔からよく言われます。

月と誕生にまつわる話は尽きませんが、奈良県の大和三山・香久山には、石から月が生まれたという不思議な伝説が残されています。

月の誕生石

天香久山に鎮まる月の誕生石

巨石の表面に流れるようなラインが見られます。まるで妊婦が腹帯をして横たわっているようにも見えてきます。

注連縄の向こうに佇む巨石は、その不思議な姿で見物人を魅了します。月の誕生石は花崗岩の大石で、高さ1.5m、幅6.5m、奥行き3mにもなります。全体の3分の1ぐらいの位置に幅20㎝ほどの窪みがあり、二個の石のようにも見えます。

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産湯の跡が見られる月の誕生石

月の誕生石を特徴付ける腹帯ラインですが、それだけではなく産湯の跡も確認することができます。

傍に掲げられた案内板によると、月の誕生石には円形の黒色の斑点があり、月が使った産湯の跡を表しているというのです。さらには小さな斑点もあり、それは月の足跡とも言い伝えられています。

月の誕生石

ぐるりと反対方向に回ってみました。

左手向こう側に見えるのが円形の黒い斑点でしょうか?小さな斑点も探してみたのですが、どれを指しているのかよく分かりませんでした。

月の誕生石の案内板

月の誕生石の案内板。

民話より

昔、ひとかかえ程の丸味あるとても綺麗な石でした。
次第に大きく成り人肌の様な温もりを残し、夕焼空を染め上げたように輝いて居りました。
又不思議お腹の辺りに白い帯の様なものが浮き出てきました。
尚不思議お腹が突き出てとても苦しそうに見えました。
「お母さんの腹帯そっくりだ」「石が赤ちゃんを生むんだ!」子供達は赤ちゃん誕生を心待ちにして居りました。
そんな或晩のこと、山の方で赤ちゃんの泣く声を聞いたような気がして、「あっ! 石の赤ちゃんが生まれたんだ!」子供達は外へ飛び出しますと香具山の頂から真ん丸いお月様が顔を出しました。
翌日山へ見に行くと石がしょんぼりと横たわり胸の辺りに赤ちゃんの足跡が影のように残って居りました。

香久山の頂から真ん丸いお月様が顔を出していた・・・やはり、ここでも満月と出産は繋がっているようです。月の誕生石の腹帯がはち切れんばかりに膨らんでいく様子が頭に描かれます。誕生の瞬間が生々しく蘇りますね。

香久山の近くに御厨子神社というお社があり、そこの境内にも謎を呼ぶ月輪石という巨石が鎮座しています。真っ二つに裂かれた巨石で、どこか月の誕生石との類似点も感じられます。古来、香久山は月の出る山だったのでしょうか。万葉集に収められた歌の中にも、月を謳った歌は数知れずあります。

天から降って来た香具山

大和三山の一角である香具山は、天から降って来た山だとも言い伝えられます。

天香具山の名前の由来でもあります。

「伊予国風土記」逸文によると、天上世界に元々香具山という山があったそうです。

その山が地上世界に降りてきた時、二つに分かれたのだそうです。ひとつは大和国に降りて「天加具山(あまのかぐやま)」となり、もうひとつは伊予国に降りて「天山」となりました。このお話からも、香具山が天から降りて来た由緒正しい山であることが分かります。高天原に至る聖地であり、大和三山の中でも一際格式の高い山として仰がれる所以です。

三輪山と田圃

水田の向こうに三輪山を望みます。

香具山の麓付近からも、大和最大の聖地と言われる三輪山が見えています。

香久山風致地区

この辺りは香久山風致地区とされます。

聖徳太子が香久山の麓に寺を建立し、お地蔵様を祀ったと伝わる八釣山地蔵尊にお参りして来ました。その後、月の誕生石が鎮まるという香久山を目指します。

天から降って来る際にも、なぜか二つに分かれている香久山。何かこう、香久山にはパカッと二つに割れるイメージが付きまといます。月の誕生石も、実際には二つに割れているわけではありませんが、その腹帯ラインを見ているとどうもイメージが重なります。

香久山へ続く畦道

田圃の間の畦道を進みます。

行く手の正面に見えている山が天香久山です。普通自動車ではこの道は通行困難です。道の両端に注意書きが出ていましたので、お車でアクセスされる方は注意が必要ですね。

月の誕生石の道案内

畦道を抜けて右へ取り、緩やかな坂道を上って行きます。

程なく右手の電柱に、月の誕生石の道案内が出ていました。

それにしても、天から降って来てもう一方に舞い降りた伊予国の天山が気になります。天山の周辺にも小さな丘陵が点在しており、大和三山周辺の地形ともよく似ているそうです。

天山には天山神社というお社があり、風土記の森として仰がれています。神社へ続く登り口には「天山の われて落ちぬる おもかげや 今も雲井に 残る三ケ月」と刻まれた歌碑が建っています。

月の誕生石の入口

月の誕生石へと入って行く道。

民家の脇を抜けて、巨石が待つ山道へと続いていきます。

月の誕生石の道標

道標がありました。

なぜかヘルメットを被っています(笑) その向こうにお地蔵さんが祀られていました。

月の誕生石

左手に山道を下って行くと、結界の向こうに月の誕生石が姿を現しました。

山自体が天から降って来たのです。そう考えてみれば、その山中に鎮まる石から月が誕生しても不思議ではないのかもしれません。

月の誕生石

苔生した月の誕生石。

香具山は国見の山でもあります。舒明天皇が山の上から飛鳥の地を見渡し、国土の美しさと繁栄を称えたことはよく知られています。

また、万葉集における持統天皇の「春過ぎて 夏来るらし 白たへの 衣ほしたり 天の香具山」はあまりにも有名ですよね。

月の誕生石

純白の紙垂と、苔の緑が美しく映えます。

香久山は「青香具山(あおかぐやま)」とも呼ばれる緑深い山です。山麓には水の神・啼沢女命(ナキサワメノミコト)が祀られ、香具山は禊の神山と仰がれてきました。雨乞い神事と関係のある蛇つなぎ石も月の誕生石のすぐ近くにあります。香具山が水の禊に深く関係する山であったことが分かります。

産湯の跡と月の足跡

「産湯の跡、月の足跡」の文字が見えます。

天香具山はアマテラスを天岩戸に祭る時、神の宿る徴となる榊である「天の真榊(あまのまさかき)」を取った山です。さらには、鉄(くろがね)から鏡を作った山でもあります。かの神武天皇も、香久山の赤埴(あかはに)から祭器を作り、神を祀っています。

様々な伝説に彩られる天香久山。

月の誕生石の産湯の跡

これが産湯の跡でしょうか。

満月をすっぽりそのまま当て嵌めてみます(笑)

月の誕生石

月の誕生石の背後に回ってみると、何やら黒い筋のようなものもありました。

二本の黒い筋が縦に流れています。

これは一体何でしょう?

月の誕生石

この角度からも腹帯の線が確認できます。

それにしても神秘的ですね。

月の誕生石の腹帯ライン

腹帯の線に近付いてみます。

ズームインしてみると、まるで鎖のように数珠つなぎになっているようにも見えます。

月の誕生石と紙垂

万葉集の三山歌の中では、最も多く歌われたという香具山。

畝傍山を女性に例え、男性に見立てた香具山と耳成山が畝傍山をお互いに奪い合うという歌が残されています。恋愛における三角関係を大和三山に見立てた秀逸な手法には少々驚きもありますが、印象に残る名歌として今に伝えられます。

果たして巨石から月が生まれたのか?

歴史の風雪に耐えて残されてきた逸話。その逸話にも勝る現実感が、今目の前にあります。