西念寺の十一面観音@天理市福住町

茅葺屋根の本堂で知られる西念寺(さいねんじ)。

江戸時代創建のお寺で、宗派は融通念仏宗に属します。本堂向かって右手の観音堂に、奈良県指定文化財の十一面観音菩薩立像が安置されています。長谷寺式の十一面観音で、宿院仏師の作とされます。

西念寺の十一面観音

西念寺の十一面観音菩薩立像。

ブルーの彩色が鮮やかな寄木造の仏像です。

左手に水瓶、右手にはおそらく錫杖を持っていたものと思われます。光背は残されていますが、残念ながら観音様がお立ちになられる蓮華座は残っていませんでした。ご住職のお話では、台座があれば重要文化財、国宝級の仏像に指定されていたのではないかとのことでした。

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美しい木目と玉眼が見所!宿院仏師の十一面観音

西念寺の十一面観音は木目のラインが美しい仏像です。

そして、その切れ長の目には玉眼が嵌め込まれています。

見る者を魅了するふくよかな表情に、しばし時間を忘れて立ち尽くしました。

西念寺本堂

西念寺本堂。

特徴的な茅葺屋根の建物です。

本堂内には室町時代後半の木造阿弥陀如来像が安置されています。

この地を治めていた福住氏の墓が、この裏山にあるようです。中世に栄えた福住氏。興福寺傘下に興った福住氏や山田氏は、かつて群雄割拠の中にいました。福住氏は筒井氏と姻戚関係にあり、強い力を持つようになったと伝えられます。

西念寺十一面観音

御顔の表面に、美しい木目のラインが走っていますね。

伏し目がちに瞑想する姿に、思わず引き込まれます。光背や太腿周辺には虫喰いの跡らしきものが見えますが、概して保存状態は良好です。

福住の西念寺

国道25号線から少し右手に上がった所に佇む西念寺。

西念寺へのアクセスは、名阪国道の福住インターチェンジを降りて国道25号線を東へ取ります。福住中学校、郵便局、福住公民館と過ぎて緩やかに左へカーブする辺りに茅葺屋根の建物が見えて参ります。一見すると民家のようにも見えますが、あれが西念寺の本堂です。

西念寺の石燈籠

お寺の参道手前に建つ石燈籠。

私が訪れたのは6月半ば過ぎでしたが、毎年4月20日前後には枝垂桜の名所として賑わうようです。比較的遅い時期に咲く桜で、その年の桜を見逃してしまった人にはおすすめです。

西念寺

西念寺の門前。

石碑のような寺号標が建っていました。

天理市福住町の西念寺

蓮台山西念寺来迎院と刻まれます。

西念寺の山号は「蓮台山」のようですね。

西念寺山門

山門の扁額にも「蓮台山」の文字が見えます。

実はこの日、拝観予約をすることもなくぶらりと訪れたのでした。断っておきますが、西念寺の拝観は要予約となっています。この日はたまたまご住職にお会いすることができ、仏像拝観の幸運にも授かりました。

西念寺十三重石塔

本堂前に建つ十三重石塔。

見るからに比較的新しいもののようです。石塔の背後には巨石が置かれていました。

境内でご住職と目が合い、軽く挨拶を交わします。

ご住職は大和郡山市横田町方面から定期的に通っておられるようです。境内の清掃など、こまめに管理を続けていらっしゃいます。たまたまそのご出発の前に、行き会うことができました。

私の実家も融通念仏宗です。

大阪平野の本山から一年に一度お参りに来てもらうことを話していると、西念寺本堂内の阿弥陀様の話になりました。本堂向かって右手の収蔵庫も気になったのでお伺いすると、十一面観音を祀る観音堂とのことでした。親切なご住職にお誘い頂く格好で、堂内の仏像を拝ませて頂くことになりました。

西念寺十一面観音

真正面から十一面観音様を仰ぎ見ます。

ご住職が扉を開くと、鄙びた感じの木造立像が姿を現しました。どこか親しみを覚える観音様です。

西念寺十一面観音

長く伸びる右手。

衆生を救うために、その手を出来得る限り伸ばしています。光背の文様も鮮やかに残っていますね。ご住職とて観音様に触れてはならないようです。掃除の際には、御身体の埃をはたいて、足元に落ちた埃を拭い取るという作業を繰り返します。奈良県の文化財に指定されていますが、国宝にでも昇格すればお寺で管理することは許されないのでしょう。

西念寺十一面観音

仏像はお寺で拝観してこそ意味があります。

やむを得ず博物館に寄贈することになるのでしょうが、やはりその地で守られてきた仏像はその場所に居続けてこそ価値があります。場のエネルギーというか、そういうものは馬鹿にならないと思うのです。

天理市指定文化財

天理市指定文化財でもあるようです。

実は西念寺の十一面観音も、元来この場所に祀られていたわけではありません。

何を隠そう、客仏なのです。

かつては氷室神社の神宮寺・長楽寺の御本尊であったと伝えられます。廃仏毀釈で無残にも寺が破却され、こちらに移ってきたそうです。氷の神様を祀る氷室神社ですが、西念寺からも徒歩圏内に鎮座しています。氷室神社とも深い関わりのある仏像だったのですね。

西念寺十一面観音

右手の親指を折り曲げています。

おそらくこの手に、錫杖を手にしていたのでしょう。

通常は地蔵菩薩が手にする錫杖ですが、長谷寺式観音の右手にはその錫杖が握られます。杖をついて衆生の元まで降りて行く、有難くも慈悲深い観音様の姿が浮かびます。高所から見下ろしているだけではない、より ”人に近い” 菩薩の姿がうかがえます。

西念寺十一面観音

ぽってりとした唇。

頬もふくよかですね。

像高は180cmに及び、ほぼ等身大の観音様と対峙することになります。

ところで、宿院仏師は木寄番匠の出身だったと言います。木寄番匠とは、仏像製作時の用材を調達するのが主な仕事だったようです。「木を見る目」は確かだったのでしょう、西念寺の十一面観音からもそのことがうかがえます。

西念寺十一面観音

西念寺の十一面観音を解体した時の写真。

寄木造の仏像ですから、もちろん分解することができるわけですね。

十一面観音の首の内側には像内銘が遺されていました。

奈良県指定文化財

奈良県指定有形文化財の指定書。

第91号として、木造十一面観音立像が文化財に指定されています。発見された像内銘がその決め手となったようです。

西念寺十一面観音

奈良国立博物館に出開帳していた時の写真。

平成17年の初夏に催された企画展のようです。『宿院仏師寄~戦国時代の奈良仏師~』と題するイベントだったようですね。

西念寺十一面観音

当時の展示品。

僧の身分を持たない、俗人の仏師が手掛けた仏像です。そこには宿院仏師ならではの、体温にも似た温かさが感じられます。

西念寺十一面観音

ふらりと立ち寄った境内でしたが、寺宝を拝観させて頂くことになるとは思ってもみませんでした。

しかも、かねてから気になっていた宿院仏師の仏像です。

西念寺観音堂

黄金に輝く蓮の葉が堂内を荘厳(しょうごん)しています。

十一面観音の右手にも、他の仏像が安置されていました。

西念寺薬師如来坐像

厨子の扉の内側に描かれた絵。

何気なく開かれていましたが、この絵画にも並々ならぬ時の流れが感じられます。

西念寺薬師如来坐像

黒い仏像が幕の隙間から顔を覗かせます。

なぜか扉絵の方に、先に視線が行きます(笑)

西念寺薬師如来坐像の厨子

ちょっぴりコミカル、それでいて秀逸な出来栄えを感じさせます。

彩色が実に鮮やかですね。

西念寺薬師如来坐像

宿院仏師作薬師如来坐像

左手には薬壺を持っていました。

頭髪が特徴的ですね、どこか西大寺の御本尊を思わせます。縄状の頭髪は「清凉寺式釈迦如来」とも言われ、そのエキゾチックな雰囲気が見る者を引き寄せます。こちらの仏像は薬師如来ですが、あまり見慣れないヘアースタイルに釘付けになります。

西念寺十一面観音

頭上の化仏にも寄ってみます。

同じく彩色が残されていますね。

西念寺無縁仏

観音堂の前には無縁仏が並んでいました。

帰り際に、ご住職にお礼を言ってお寺を後にします。

『氷室の郷土 福住』と題するまちづくりマップにも、ここ西念寺が紹介されています。覆い被さるような枝垂桜と本堂の写真が掲載されており、桜の季節のお詣りがタイムリーであることをうかがわせます。遅咲きの桜ですので、4月20日前後ぐらいがおすすめです。

西念寺境内

十三重石塔裏手の巨石。

ご住職にお伺いしましたが、この巨石はこれと言って意味は無いようです。

ただ単に大きいと(笑)

氷室神社参拝の折には、是非西念寺まで足を延ばしてみてはいかがでしょうか。宿院仏師の仏像を心ゆくまで拝むことができます。

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